100均で買い物したら 商品を投げられても仕方がないと思う

日本の接客がよく最高だという話を聞く。

大抵は外国に旅行してきた日本人で、外国に比べたら日本のサービスは最高だよと皆口を揃えて言う。

そんな話を耳に挟んだ僕は、外国に旅行したことがないので、日本のサービスの良さが当たり前になりすぎていて、正直その感覚が麻痺しているのだ。

 

殆どのお店では素晴らしい接客を受けれていると思う。外国に出た事がない僕でも気持ちの良い接客を受ける事がある

それどころか接客してくれた人が無愛想だったり、お釣りの渡し方が雑だったりしただけで、少し気が悪くなる始末。

これでは日本のサービスの良さが分かるはずも無く、トボトボと帰路に着くのである。

しかも、僕が買い物や食事をしている所は高級店で無く、何処にでもあるような安いチェーン店だ。

 

「お客様は神様」というフレーズがあるように、店員と客の場合、客の方が偉いと言う風習があると思う

時にはマクドナルドの100円のハンバーガーに言いがかりをつけ、時には値段の安い居酒屋で提供が遅いとクレームを入れる、

勿論、接客は良い事にこした事はないが、値段の安いところで最高の接客を求めるのは少し違うのではないかと思うのだ。

 

もっとこう値段に比例した方がいいと思うのだ。

値段が安い所はもっとフランクに、反対に高いお店は丁寧な接客をする。

「この値段ならばこの接客なんだな」「やはり値段が高い所の接客は違うな」と消費者が納得する。

そうする事によって、日本はもっと素晴らしい国になるんじゃないかと思うのだ。

 

 

仕事が終わり、100円ショップのSeriaへ向かう。

ここは100円ながら、オシャレでコスパの良いアイテムが沢山置いてある。

中でもお気に入りなのが耳栓で、初めて付けた時はその防音性にひどく感動したものである。

 

所詮、100円のものなので1ヶ月持てば上出来。

大抵は2週間足らずでへたれてしまうので、その都度新しい耳栓を買う事にしている。

ケチな性根なので、都度買ってしまう事に少しばかりの抵抗を感じてしまうが、ここは100円ショップだ。

値段のことは気にすることはない。 むしろ気にするのはその後の事かもしれない。

 

レジには2人並んでいた。 その先頭で「この度、商品を購入させて頂きました山田と申します!今回は3点購入させて頂きます!!」と声高に話す客がいた。

50代ぐらいだろうか、頭は禿げ上がり、スーツ姿、 終電間近の新橋辺りでインタビューされていそうな、いかにもサラリーマン風な男だった。

話している相手は、女子高校生だろう、学校にばれないようになのかほんのりと髪を茶色に染めていた。 メイクはナチュラルでとても可愛い店員だ。

 

その店員は客が持ってきた商品をバーコードリーダーで読み取り、その商品を山田のはるか後ろへ放り投げる。 もうSeriaのテナントスペースの外に出て、隣の薬局辺りまで飛んでいる。

「走って取りに行けやボケ!!!!」店員はドスの効いた声で叫ぶ。

その度、山田は薬局まで商品を走って取りに行き、レジに戻り自分で袋に詰める。 3回程繰り返すと「ありがとうございました!!」324円を両手でトレイに置き深々とお辞儀をし去ろうとした、

その時、「待てやコラ!!!」店員が山田を引き止める。山田は呼び止められるとも思っていなかったのだろう、怪訝な表情を浮かべながら、振り返った。

「もっと深くお辞儀しろやコラ」言われるがままに山田はお辞儀をする、それはまるでタレントが不祥事を起こし、テレビカメラや記者たちを前にして、謝罪会見を行った時のように深々とお辞儀をした時のように。

 

見ているこちらが眩しい程に大量のフラッシュが焚かれている、タレントである彼らは誰に謝っているのだろうかとお辞儀をする山田を見ながら、他人事のように思った。 自分もこの人と同じ列に並んでいるというのにだ。

お辞儀をする山田に店員がバーコードリーダーを取り出し、その禿げ上がった山田の頭にバーコードリーダーを当てる

勿論、反応はしないだろう。ケラケラと笑いながらバーコードリーダーを頭に当て続ける女子高生とお辞儀をする50代ぐらいのサラリーマン

「反応しないじゃん、お前108円以下だなつまんねー帰ってよし」飽きたのだろう、女子高生店員は山田にそう言った。

「あ..ありがとう..ございます..」山田は涙ぐみながら、Seriaを後にした。 

一見すると、異様な光景だが、ここら辺りではよく見かける、いつも通りの光景だ。

過剰化したサービス業の行く末が、ここにある。自尊心と引き換えに僕たちは安く商品を買う事ができる。

「全部拾えよ!!!!!」

2人目の客も同じく、商品を投げつけられていた。 コップや陶器を買ったのだろう、放り投げた数秒後には「ガシャン」と派手な音が聞こえる。

 

客はその度に薬局辺りに走り、割れた破片を手で集め袋に詰める。そんな物を持ち帰ってどうするつもりなのだろうか。 

さて、そろそろ僕の番が来るだろう、片耳にだけ付けていたイヤホンを外しIpodにクルクルと巻きつけてポケットにしまった。

コレそう飛ばないはずだろう、耳栓を2袋ギュッと握りしめて、前を向いた。